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Marvin Gayeのキャリアのなかで、評論家たちに最も酷評されるアルバムがある。
「Here My Dear(1978)」がそれである。 当時、Marvinにとって妻であったAnna Gordy(Motownの社長であったBerry Gordyの姉)との離婚係争の末に請求された慰謝料の100万ドルを捻出するためにリリースされたうえに、しかも内容が極めて私小説的すぎる、というのが酷評の理由と思われる。 評論家という輩の方々がもしこのブログを見ていたら、今から私が「Here My Dear」というアルバムの素晴らしさを教授するのでせいぜい「勉強」をして、今後の少しでもまともな執筆活動にお役立ていただけたら幸いに思う。 「Here My Dear」が「極めて私小説的」といわれる理由は、ドロ沼化していたAnnaとの関係にあったMarvinの内面が、2枚組みを彩る全ての曲にあまりにもリアルに投影されているからである。酷評される原因は、プライベートを作品にあまりにも映し出してしまっているというところにあるようだが、これは表現者たるもの極めて当たり前のことなのである。人間である以上、いつも前向きで建設的な精神状態にあるとは限らない。ベトナム戦争に表現者として立ち向かった「What’s Going On(1973)」が素晴らしくて、プライベートな負のエネルギーを発散した「Here My Dear」がよくないというのであれば、その時点ですでにMarvin Gayeに触れる資格がないといえる。 重ねて言えば、作品をリリースして「金を稼ぐ」のは当たり前のことである。プロなんだから。 第1面(1枚目のA面)の3曲目の「When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You」は、もしかして彼のキャリアのなかでベストタイトルかも、と思うことがあるくらいに美しいメロディーにAnnaへの屈折した想いがつらづらと綴られている。この曲のもつメロディーの圧倒的な美しさと「超私小説的」リリックのギャップに、「Here My Dear」に初めて触れるかたは、まずここで「精神の混線状態」に陥るだろう。これを乗り切らなければ、このアルバム全体を消化することはできない。 第3面の1曲目の「Sparrow」は私が知りうるSoul Musicのなかで最も美しいシャッフルナンバーであると思う。ドラッグと離婚係争からくる鬱状態にひどく悩まされて「雀(sparrow)」に問い掛ける内容のリリックになぜか心が重たくなる。 第3面の2曲目の「Anna’s Song」でこのアルバムは佳境を迎える。究極の暗さとある種の「怨念」を感じる。メロディーはとりとめもなく美しいが、織り重なる情念の重たさで心が潰されてしまいそうな曲である。 第4面の3曲目の「Falling Love Again」はこのアルバムのなかにおいて、唯一ある種の「希望感」のようなものを感じとれる美しい曲である。アルバム全体の溜飲をさげるような効用のある曲で、この曲がなかったらこの「Here My Dear」は暗く重たいだけの「救いのない」アルバムになっていたかもしれない。 世の中は本当に良いことばかりが続くとは限らないと思う。 Marvin Gayeという男は、常に美しいメロディーとその声で、やさしい愛情を歌い、セックスを歌い、反戦を歌い、離婚を歌い、時にはドラッグにまみれたプライベートを歌った。 私はどんな内容においてもMarvin Gayeというアーティストの素晴らしさを今更ながら感じるし、何万回と聴き重ねても、今だに新しい発見をすることができる未曾有な存在であると思う。 「愛情」「反戦」は素晴らしく、「離婚」「ドラッグ」は作品としてダメというのなら、評論家といわれる方々は、さぞかし人間として完成し、ご立派な人生を送られているのだと思う。是非、お会いしてみたいものだ。あり得ないけどね。 次回はSoul Musicとゆかりの深い作曲家、Burt Bacharachについてご紹介します。
by show-zono
| 2004-05-18 22:42
| Soul Music
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Comments(6)
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sugar_pepper at 2004-05-21 15:25
創り手の内面を投影させたものが×だとすれば、殆どの芸術は×になってしまいますね。
人間の内面にあるものは様々で、品行方正な部分だけなんて有り得ない。 要は創り出されたそのもので何かを感じ得れば良いだけのことです。 それがまともに出来ない人間が評論などをしているから太刀が悪い。 的外れな理屈を並べ立てる前に、己の感性を磨かれた方が良いのではと思いますね。 「When Did You Stop Loving Me~」 →とにかく耳に残る印象が強い。 美しくも複雑なメロディの流れ方に圧倒させられてしまいます。 カバーもされてますが、どれもMarvinの足元にも及ばない。(内容が内容だから当たり前か) 彼の音楽にあまり触れたことのない方には、どう映るのか知りたい曲でもあります。 「Sparrow」 →基本的にシャッフルは好きではないのに、これは別。 なぜMarvin Gayeというフィルターを通すとこんなにも素敵になってしまうのか。やはりスゴイ。 「Anna’s Song」「Falling Love Again」も良いですね。個人的には「Time To Get It Together」あたりも 好きです。 良いものを良いと感じ取れる人間でいたいものですね。お互いに。
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show-zono at 2004-05-22 11:51
そうですね。何年も前あたりから私はそういう評論家という人の意見をまったく信じなくなってしまいました。以前は新しい作品と出会うために参考にしたりすることも多かったのですが。sugar_pepperさんにもよくありませんか?すごく良いと思っている曲があるのに、業界の人によってセレクトされたBest盤には入っていなかったりすることが。以前、ある音楽業界の人に会う機会があったのですが、その人が全然、音楽を理解していなかったので愕然としたことありました。こういう人が音楽にたずさわっているんだ、と悲しくなりました。それ以来はこと音楽に関してはすべて自分の耳だけで判断したいと思うようになりました。おっしゃるとおり、どのような経緯によって生まれた作品であろうと、良いものは良いですし、「Here My Dear」はまさにそういう作品なのだと思います。実際セールスに結びついていない作品のなかにも良いと思うものも多いですよね。
私は、そういう疑問から、あえて評論家が書かないような自分の耳でとらえた「事実」をこのブログで書きたいといつも思っています。sugar_pepperさんのように、「事実」を真摯に見つめられる方がいるのはとても心強いことです。
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airplay
at 2004-05-24 16:57
x
某音楽評論家が書いてたんですが
別の評論家先生に「○○の新譜は聞きましたか?」と聞いたら 「ん~まだレコード会社が送ってきてないから聞いてない」と 言われて絶句して、 「この人の書くことは信用しない事にしようと思った」 という話をしていました。 ほんとうに音楽について語るときは 人の意見はどうあろうと自分で聞いて 判断しなければいけないって言うことですよね。 先週末に「永遠のモータウン」見てきました。 ほんとにいい映画でした。 ヒット曲の数々を無名のバックミュージシャンたちが 支えていたとはまったく知りませんでした。
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show-zono at 2004-05-24 21:23
そうですね。Soul Musicの評論を「なりわい」とするのであれば
音楽と真摯に向き合って「事実」を語ってもらいたいものです。 ところで「永遠のモータウン」はこのブログ周りでは非常に評判が よいですね。前回の『「What’s Going On」の亡霊』にトラック バックしていただいたoremamaさんが「永遠のモータウン」につい て熱く語られています。airplayさんも良かったら訪れてみてくだ さい。
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cassavetes69 at 2005-01-08 13:22
驚きました。「When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You」は、僕もものすごく好きな曲なんです。「Here,My Dear」も大好きなアルバムです。Marvin gayeの作品だからと盲目的に賛美しているわけではなくて、実に聴き応えのあるアルバムだと思います。さまざまなMarvin gaye論を読みましたが、この「Here,My Dear」は殆ど無視されています。彼の作品はどれもその傾向がありますが、他のミュージシャンとのコンピレーションには向きませんよね?このアルバムは特にその傾向が強いように思います。そういう判りやすくてキャッチーな曲がないことが、安易な評論家の目をつぶらせているのでしょうか。---私小説的で何が悪い。そういう人間がプロとして音楽を語る資格はない。
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show-zono at 2005-01-09 22:24
おっしゃるとおり、「Here My Dear」は実に聴き応えのあるアルバムです。これはcassavetes69さんと同様に私自身がMarvinに対し盲目的になっているからではありません。
cassavetes69さんがおっしゃっていた「悲しみと戯れることができない輩」では確かに理解は難しいのかもしれません。 そういう程度の人間が軽々しくMarvin Gayeを語るべきではないと思うのです。
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